東京地方裁判所 平成5年(特わ)351号 判決 1993年9月14日
本店所在地
東京都新宿区三栄町二五番地
永安産業株式会社
(右代表者代表取締役 堀啓)
(右同 堀洋)
本籍
東京都板橋区東山町三三番地
住居
千葉県千葉市美浜区真砂三丁目一七番一棟六〇七号
会社役員
堀啓
昭和一一年六月二六日生
本籍
兵庫県神戸市須磨区須磨寺町四丁目一四番地
住居
千葉県千葉市美浜区磯辺一丁目四一番七号
会社役員
堀洋
昭和一八年一〇月三〇日生
右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官渡邉清、弁護人木下貴司各出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人永安産業株式会社を罰金八〇〇〇万円に、被告人堀啓及び被告人堀洋をそれぞれ懲役二年に処する。
被告人堀啓及び被告人堀洋に対し、この裁判の確定した日からいずれも四年間それぞれその刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人永安産業株式会社(以下「被告会社」という。)は、東京都新宿区三栄町二五番地(昭和六三年四月一日以前は、東京都新宿区荒木町一三番地)に本店を置き、内装工事設計施行等を目的とする資本金八〇〇万円の株式会社であり、被告人堀啓は、被告会社の代表取締役社長として、被告人堀洋は、被告会社の代表取締役専務として、共に同会社の業務全般を統括しているものであるが(以下、被告人堀啓及び同堀洋を「被告人両名」という。)、被告人両名は、共謀の上、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空製造原価(外注加工費)を計上するなどの方法により所得を秘匿した上
第一 昭和六二年一二月一日から昭和六三年一一月三〇日までの事業年度における実際所得金額が一八六、二三八、六四五円(別紙1の1~3の修正損益計算書、修正製造原価報告書参照)であったにもかかわらず、平成元年一月三〇日、東京都新宿区三栄町二四番地所在の所轄四谷税務署において、同税務署長に対し、その所得金額か三七、三三六、四三七円で、これに対する法人税額が一三、四六六、三〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成五年押第四九二号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額七五、九九三、一〇〇円と右申告税額との差額六二、五二六、八〇〇円(別紙2のほ脱税額計算書参照)を免れ
第二 昭和六三年一二月一日から平成元年一一月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が三三六、三七七、八三四円(別紙3の1~3の修正損益計算書、修正製造原価報告書参照)であったにもかかわらず、平成二年一月三〇日、前記四谷税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が四七、四四八、四五一円で、これに対する法人税額が一七、四二四、二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同押号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額一三八、六九七、五〇〇円と右申告税額との差額一二一、二七三、三〇〇円(別紙4のほ脱税額計算書参照)を免れ
第三 平成元年一二月一日から平成二年一一月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が四五八、八九四、九八〇円(別紙5の1~3の修正損益計算書、修正製造原価報告書参照)であったにもかかわらず、平成三年一月三〇日、前記四谷税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一〇六、三四六、九一七円で、これに対する法人税額が三五、三八六、四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同押号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額一七六、四〇五、六〇〇円と右申告税額との差額一四一、〇一九、二〇〇円(別紙6のほ脱税額計算書参照)を免れ
たものである。
(証拠の標目)
判示全部の事実について
一 被告人両名の当公判廷における各供述
一 第一回公判調書中の被告人両名の各供述部分
一 被告人堀啓の検察官に対する供述調書一二通
一 被告人堀洋の検察官に対する平成五年一月二九日付、同年二月一二日付、同月一八日付、同月二〇日付(二通=本文が六丁のもの及び本文が三丁裏までのもの)、同月二一日付、同月二二日付、同月二三日付四通)各供述調書
一 下村進(三通)、矢野郁夫(二通)、大山征一、曽宮伸治の検察官に対する各供述調書
一 大蔵事務官作成の外注加工費調査書、交際費(製造原価中)調査書、雑費(一般管理費)調査書、有価証券売却益調査書、雑収入調査書、事業税認定損調査書、交際費損金不算入額調査書
一 登記官作成の登記簿謄本
判示第一及び第三の事実について
一 検察事務官作成の「交際費の金額について」及び「交際費損金不算入額について」と題する各報告書
判示第二及び第三に事実について
一 大蔵事務官作成の支払利息割引料調査書
一 検察事務官作成の「外注加工費の金額について」と題する報告書
判示第一の事実について
一 押収してある法人税確定申告書一袋(平成五年押第四九二号の1)
判示第二の事実について
一 被告人堀洋の検察官に対する平成五年二月八日付、同月二〇日付(本文が三丁表までのもの)各供述調書
一 武田正健の検察官に対する供述調書
一 大蔵事務官作成の支払手数料調査書
一 検察官、弁護人共同作成の合意書面
一 押収してある法人税確定申告書一袋(前同押号の2)
判示第三の事実について
一 被告人堀洋の検察官に対する平成五年二月七日付、同月一〇日付各供述調書
一 辰口良、幡本篤、新井兼二、松田智亮の検察官に対する各供述調書
一 検察事務官作成の「事業税認定損の金額について」と題する報告書
一 押収してある法人税確定申告書一袋(前同押号の3)
(法令の摘用)
一 罰条
1 被告会社
判示第一ないし第三の各事実につき、法人税法一六四条一項、一五九条一項、二項(情状による)
2 被告人両名
判示第一ないし第三の各所為につき、いずれも刑法六〇条、法人税法一五九条一項
二 刑種の選択
被告人両名につき、いずれも懲役刑
三 併合罪の処理
1 被告会社
刑法四五条前段、四八条二項
2 被告人両名
いずれも刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い第三の罪の刑に法定の加重)
四 刑の執行猶予
被告人両名につき、いずれも刑法二五条一項
(量刑の理由)
本件は、内装工事設計施行等を業とする被告会社の社長及び専務であった被告人両名(兄弟)が、仕事の受注先であるゼネコン(大手総合建設業者)の従業員らに対する多額の接待交際費やリベートの支払に充てるための裏金を作ろうと企て(被告人堀洋には裏金を株式投資に充てるつもりもあった。)、外注先に協力を求めて、水増し工事や架空工事を発注し、水増し分や架空分を含む外注加工費をいったん外注先に全額支払って、水増し分等から協力への謝礼分(二、三割程度)を控除した額を現金で戻させるなどし、確定申告においては架空製造原価を計上するなどして、三事業年度にわたり、被告会社の所得を合計七億九千万円余(右外注先への謝礼分約一億九千万円を含む。)少なく見せかけ、合計三億二四八一万円余の法人税を脱税したという事案であり、ほ脱率も通算約八三パーセントに達している。本件脱税の発案、継続及び拡大に主導的役割を果たしているのは、被告人堀洋(弟)であるが、被告人堀啓(兄)も被告会社の最高責任者として本件脱税の決行に断を下し、自らもその実行に深く関与している。右のような脱税額の大きさ、ほ脱率の高さ、犯行の計画性等のほか、この種事案については一般予防の必要性が高いことにかんがみると、被告人両名の刑事責任は重いといわざるをえない。
他方、被告人両名が本件脱税を思い立ち継続したのは、前記のとおり主としてゼネコン従業員らに対する接待交際費等の資金を捻出するためであり、個人的な利得・蓄財のためではなかったこと、被告人両名は、国税庁の査察を受けて以来、事実を認めて査察及び捜査に協力し、かつ税理士や弁護士に相談して二度と同種事犯を犯さないように努めており、当公判廷において真摯な反省の態度を示していること、被告会社は、起訴前に関係当局の指導に従い、本件三事業年度分の法人税、法人事業税、法人都民税及び消費税を、過少申告加算税、重加算税、延滞税等を含めて完納していること、被告人両名が各自金一千万円という個人としてはかなりの額の贖罪寄付をしていること、被告人両名には前科前歴がないこと、被告人堀啓は本人に健康上の不安がある上、その妻が難病に罹患していることなど被告人両名につき酌むべき事情も認められる。
当裁判所は、以上のほか一切の情状を考慮して、主文のとおり量刑した次第である。
よって主文のとおり判決する。
(求刑 被告会社・罰金一億円、被告人堀啓及び被告人堀洋 各懲役二年)
(裁判官 安廣文夫)
別紙1の1
修正損益計算書
<省略>
別紙1の2
修正製造原価報告書
<省略>
別紙2
ほ脱税額計算書
<省略>
別紙3の1
修正損益計算書
<省略>
別紙3の2
修正製造原価報告書
<省略>
別紙4
ほ脱税額計算書
<省略>
別紙5の1
修正損益計算書
<省略>
別紙5の2
修正製造原価報告書
<省略>
別紙6
ほ脱税額計算書
<省略>